刑法における危険犯の分類について検討したいと思う。従来の具体的危険犯・抽象的危険犯という二分法では説明しきれない犯罪類型があるのではないだろうか。そこで四分説による整理を試してみたい。
従来の分類とその限界について述べると、具体的危険犯とは条文に「危険」という語がある類型で、現実に危険が発生したかを確認する必要がある。往来危険罪などがこれにあたる。一方、抽象的危険犯とはその行為自体が危険だとされる類型で、実際の危険発生は問題にしない。放火罪、公務執行妨害罪などがこれである。
ところが、この分類では困ったことが起きる。身近な例で、公務執行妨害罪を抽象的危険犯だとすれば、公務に実害のない軽い行為でも処罰されてしまう。だから学説は「暴行」を限定的に解釈し、実質的な危険が必要だとする。これでは抽象的危険犯の理論を超えている。往来危険罪も問題である。具体的危険犯とされるが、個々の列車への差し迫った危険は要求されない。判例では「往来の安全」への一般的な危険で足りるとしている。これは純粋な具体的危険犯ではない。
そこに応える形で、危険の程度と対象の範囲で分類する四分説が登場している。第一は狭い意味の具体的危険犯で、特定の人への差し迫った現実の危険を要件とし、被害に最も近い類型である。殺人未遂罪などがこれである。第二は準具体的危険犯で、不特定多数への類型的危険を基準とし、差し迫っていなくてもよい。往来危険罪、公害犯罪処罰法などが該当する。第三は準抽象的危険犯で、構成要件解釈で実質的危険を考慮し、形式判断だけでは不十分である。遺棄罪、公務執行妨害罪などがここに含まれる。第四は狭い意味の抽象的危険犯で、基本的に形式判断でよく、特別な事情がない限り処罰される。偽証罪、無免許運転などが該当する。
この分類の価値を述べると、四分説なら、これまでの解釈論に理論的根拠が与えられる。中間類型を設けることで、判例・学説の細やかな判断を理論的に説明できるのである。この背景にはドイツ刑法学の結果無価値論がある。単なる分類論ではなく、刑法理論全体に関わる議論ということができる。
- 平野龍一 (1972) 『刑法総論Ⅰ』有斐閣.
- 岡本勝 (1974) 「「抽象的危殆犯」の問題性」『法学』38巻2号.
- 佐伯千仭 (1977) 「公安条例と抽象的危険犯」『法律時報』49巻.
- Schröder, Horst, “Abstrakt-konkrete Gefährdungsdelikte?”, JuristenZeitung 22(17), 1967.
- Cramer, Peter, Der Vollrauschtatbestand als abstraktes Gefährdungsdelikt, Tübingen: Mohr (Siebeck), 1962.