Hain完備化と曲線の同型について

先生から「滑らかな複素代数曲線 X,YX, Y に対して、Hain の意味での π1\pi_1 の混合ホッジ完備化が混合ホッジ構造の圏で同型ならば、XYX \cong Y は従うか?」という雑談がありました。直感的には従いませんが、確かめたメモを備忘録として公開しておきます。

正確には、Hain の完備化は表現 ρ\rho に対する相対的な完備化であるため、ρ\rho を指定しない問いはやや曖昧です。曲線そのものから自然に出る読みとしては、通常は ρ=1\rho=1 の冪単完備化を指していると読むのが自然でしょう。また Hain は基点付き基本群だけでなく、より一般に基本亜群の完備化 Ga,bG_{a,b} の座標環 O(Ga,b)\mathcal{O}(G_{a,b}) に標準的な混合ホッジ構造を入れており、開曲線では接基点を使うのが標準的な扱いです。

まず、一般の滑らかな複素代数曲線については簡単な反例があります。 X=AC1,Y=PC1X=\mathbf{A}^1_{\mathbf{C}}, Y=\mathbf{P}^1_{\mathbf{C}} とすると、AC1\mathbf{A}^1_{\mathbf{C}} は複素直線 C\mathbf{C} で可縮であり、PC1\mathbf{P}^1_{\mathbf{C}} はリーマン球面で単連結となります。よって両者の π1\pi_1 はともに自明で、Hain の冪単完備化もともに自明な混合ホッジ対象になります。しかし AC1≇PC1\mathbf{A}^1_{\mathbf{C}} \not\cong \mathbf{P}^1_{\mathbf{C}} ですので、「完備化が混合ホッジ構造の圏で同型なら曲線も同型」は一般には成り立ちません。

さらに、これは単に π1=1\pi_1=1 という自明な場合に限った話ではありません。滑らかな射影的基点付き曲線に限ったとしても、通常の有理 Hain 完備化だけでは曲線を決定できないからです。 たとえば原点を基点に取って、 E1=C/(Z+2iZ)E_1=\mathbf{C}/(\mathbf{Z}+2i\mathbf{Z})E2=C/(Z+iZ)E_2=\mathbf{C}/(\mathbf{Z}+i\mathbf{Z}) とすると、格子の包含関係 Z+2iZZ+iZ\mathbf{Z}+2i\mathbf{Z} \subset \mathbf{Z}+i\mathbf{Z} が 2-同種写像 E1E2E_1 \to E_2 を与えます。他方で、楕円曲線の同型類を決める jj 不変量について j(i)j(2i)j(i) \neq j(2i) であるため E1≇E2E_1 \not\cong E_2 です。しかも楕円曲線は位相的にはトーラスで π1Z2\pi_1 \cong \mathbf{Z}^2 となるので、その冪単完備化は H1(,Q)H_1(-,\mathbf{Q}) の有理ホッジ構造だけで決まります。ここで同種写像 E1E2E_1 \to E_2 から H1(,Q)H_1(-,\mathbf{Q}) の間の有理ホッジ構造としての同型が得られるので(一般に、H1(,Q)H^1(-,\mathbf{Q}) への関手は複素アーベル多様体を同種の違いを除いてしか復元しません)、同種だが非同型な楕円曲線は同じ有理 Hain 完備化を持ちます。したがって、射影的かつ基点付きにしても、有理完備化だけからは XYX \cong Y は従いません。

以上から、冒頭の問いへの答えは否で、Hain の意味での π1\pi_1 の混合ホッジ完備化が混合ホッジ構造の圏で同型であっても一般には XYX \cong Y は従いません。A1\mathbf{A}^1P1\mathbf{P}^1 がすでに反例を与えており、さらに非同型だが同種な楕円曲線の例によって、滑らかな射影的基点付き曲線の範囲でも通常の有理 Hain 完備化だけでは不十分であることがわかります。