雪江明彦『代数学3 代数学のひろがり』(日本評論社)演習問題 5.4.2 について、知人に解説した内容を記録として公開しておく。問題の全文は本書を参照されたい。
以下では、要素を
n(u1,u2,u3)=1u1u201u3001(u1,u2,u3∈F3)
と書き、F3 上の計算(2=−1)で行う。計算を楽にするため、まず積と逆元の公式を出す。
行列積を計算すると
n(u1,u2,u3)n(v1,v2,v3)=n(u1+v1,u2+v2+u3v1,u3+v3)
である。従って逆元は
n(u1,u2,u3)−1=n(−u1,−u2+u3u1,−u3)
になる。
(1) [G,G]=⟨n(0,1,0)⟩ と G/[G,G]≅(Z/3)2
まず交換子(commutator)を計算する。上の積・逆元の公式から
[n(u1,u2,u3),n(v1,v2,v3)]=n(0,u3v1−v3u1,0)
が得られる。従って任意の交換子は必ず {n(0,t,0)∣t∈F3} に入るから
[G,G]⊆{n(0,t,0)∣t∈F3}=⟨n(0,1,0)⟩
である(右辺は位数 3 の巡回群)。
逆向きに、実際に n(0,1,0)(同値に n(0,2,0))が交換子として出ることを示す。例えば
[n(1,0,0),n(0,0,1)]=n(0,−1,0)=n(0,2,0)
なので [G,G] は n(0,1,0) を生成元にもつ中心の位数 3 部分群を含み、結局
[G,G]=⟨n(0,1,0)⟩
である。
次に剰余群を見る。写像
π:G→F32,π(n(u1,u2,u3))=(u1,u3)
を考えると、積の公式より π は群準同型(F32 は加法群)で全射である。核は
kerπ={n(0,u2,0)∣u2∈F3}=⟨n(0,1,0)⟩=[G,G]
なので
G/[G,G]≅F32≅(Z/3Z)×(Z/3Z)
が従う。
したがって一次元表現(線形指標)の個数は ∣Hom(G,C×)∣=∣G/[G,G]∣=9 で、ちょうど 9 個である。
(2) 共役類は 11 個、代表元
まず中心を決める。上の交換子公式より、n(u1,u2,u3) が中心に入るための必要十分条件は
u3v1−v3u1=0(∀v1,v3∈F3)
で、これは u1=u3=0 と同値である。よって
Z(G)={n(0,t,0)∣t∈F3}={1,n(0,1,0),n(0,2,0)}
で、中心は位数 3 である。中心の各元は共役類が 1 点だから、まず共役類が 3 つある。
次に共役変換の式を出す。上の交換子計算を使うと(階数 2 の冪零群なので)
n(v1,v2,v3)−1n(u1,u2,u3)n(v1,v2,v3)=n(u1,u2+u3v1−v3u1,u3)
となり、共役で不変なのは (u1,u3) であることが分かる。
- (u1,u3)=(0,0) のときは中心なので共役類の大きさ 1。
- (u1,u3)=(0,0) のとき、(v1,v3)↦u3v1−v3u1 は F32→F3 の非零線形写像なので全射である。従って共役で u2 は F3 全体に動き、Cl(n(u1,u2,u3))={n(u1,u2+t,u3)∣t∈F3} となって共役類の大きさは 3 である。
F32∖{(0,0)} は 8 個の元を持つので、(u1,u3)=(0,0) に対応する共役類は 8 個。中心の 3 個と合わせて共役類の総数は 3+8=11 個である。
代表元は、中心の 3 つに加え、各 (u1,u3)=(0,0) について u2=0 を選べばよいので、例えば次の 11 個を取れる。
1=n(0,0,0),z=n(0,1,0),z2=n(0,2,0),n(1,0,0), n(2,0,0), n(0,0,1), n(0,0,2),n(1,0,1), n(1,0,2), n(2,0,1), n(2,0,2).
非中心の共役類はそれぞれ {n(u1,t,u3)∣t∈F3} である。
(3) ρi=IndHGϕi (i=1,2) が既約であること
まず H が正規部分群であることを確認する。上の共役公式で u1=0 とすると
n(v1,v2,v3)−1n(0,u2,u3)n(v1,v2,v3)=n(0,u2+u3v1,u3)∈H
となるので H⊲G である。
定理 5.4.5 が(一般に Mackey の既約性判定として)次を与えるとする。
⟨IndHGϕ, IndHGϕ⟩G=g∈H\G/H∑⟨ϕ, ϕg⟩H∩gHg−1,ϕg(h)=ϕ(g−1hg).
右辺が 1 なら IndHGϕ は既約である。
ここで H⊲G なので H∩gHg−1=H で、二重剰余類集合 H\G/H は G/H と同じく 3 個である。具体的に
a:=n(1,0,0)とおくとG/H={H, Ha, Ha2}.
次に ϕi の共役を調べる。h=n(0,u2,u3)∈H に対し
a−1ha=n(0,u2+u3, u3)
なので
ϕia(h)=ϕi(a−1ha)=ωi(u2+u3)=ωiu2ωiu3.
これは ϕi(h)=ωiu2 と一致しない(例えば h=n(0,0,1) で ϕi(h)=1 だが ϕia(h)=ωi=1)。従って ϕia=ϕi である。同様に ϕia2=ϕi も分かる。
H は可換群なので、異なる一次元指標は直交し
⟨ϕi,ϕia⟩H=0,⟨ϕi,ϕia2⟩H=0
である。よって定理 5.4.5 の右辺は
⟨ϕi,ϕi⟩H+⟨ϕi,ϕia⟩H+⟨ϕi,ϕia2⟩H=1+0+0=1.
従って ρi=IndHGϕi (i=1,2) は既約表現である。
(4) G のすべての既約指標
(2) より共役類の数は 11 なので、既約指標も 11 個である。(1) より一次元指標が 9 個ある。
残りを次元で決める。有限群では
χ∈Irr(G)∑χ(1)2=∣G∣=27
なので、一次元 9 個の寄与 9 を引くと残りは 18。これを平方数の和で表すと 18=32+32 しかないので、残りの既約表現はちょうど 2 個で次元 3、そしてそれらは (3) の ρ1,ρ2 に一致する。従って既約指標は「9 個の一次元指標」と「ρ1,ρ2 の指標」で全てである。
具体的に列挙する。
9 個の一次元指標
(a,b)∈F32 に対し
χa,b(n(u1,u2,u3)):=ωau1+bu3
と定めると、これは u2 に依らず [G,G] 上自明なので群準同型になり、互いに異なる 9 個の一次元指標を与える。これで一次元指標は尽きる(G/[G,G]≅F32 の指標全体に対応)。
2 個の 3 次元既約指標(ρ1,ρ2)
ψi:=χρi(ρi=IndHGϕi の指標)とおく。誘導指標の公式より、H⊲G なので
- g∈/H なら ψi(g)=0(正規部分群の外の元は共役で H に入らない)。
- g=n(0,u2,u3)∈H なら、G/H の代表 1,a,a2 を使って
ψi(g)=ϕi(g)+ϕi(a−1ga)+ϕi(a−2ga2).
先ほどの共役計算から a−kgak=n(0,u2+ku3,u3) なので
ψi(n(0,u2,u3))=k=0∑2ωi(u2+ku3)=ωiu2k=0∑2(ωiu3)k.
ここで u3=0 なら和は 3、u3=0 なら ωiu3 は原始 3 乗根なので等比和は 0 である。
従って結局
ψi(n(u1,u2,u3))={3ωiu2,0,(u1,u3)=(0,0) (中心)(u1,u3)=(0,0)(i=1,2).
特に z=n(0,1,0) とすると ψi(1)=3, ψi(z)=3ωi, ψi(z2)=3ω2i であり、非中心の共役類((2) の残り 8 クラス)ではすべて 0 である。
以上で G の既約指標は
{χa,b (a,b∈F3)} ∪ {ψ1,ψ2}
の 11 個で全部である。